『電撃戦という幻』カール=ハインツ フリー著
- 作者: カール=ハインツフリーザー,Karl‐Heinz Frieser,大木毅,安藤公一
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2003/03
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こんなに面白かった軍事系の本は久々です
WW2劈頭、ドイツ軍が電撃戦を行い陸軍大国であるフランスを打ち破った。
WW1では4年半と30万の犠牲を払いながらも達成できなかったことを2ヶ月弱という期間で達成した
この現代のカンネーの戦いといえる戦略をドイツ参謀本部はどのように立案実行したのか?
これまでの通説によると、ヒトラーがドイツの戦争経済に負担をかけないため当初から短期決戦を志向し、当初から電撃戦を行うことを前提に軍隊を練成したということになっていた。
しかし本書ではこの通説に対し、そもそも電撃戦構想なるものは最初から意図されたものではなく、電撃戦とは様々な要素が絡み合い独自のダイナミズムを獲得し突然変異的に「発生」したものであると、著者は丹念に資料を読み解きつつ論証している。
本書によるとドイツ軍上層部にもこの「電撃戦」は理解できない者がいるぐらいの、一種の革命的な軍事行動だったらしい
その証拠の一つにヒトラー自身が電撃戦が大成功を収めつつあるのにも関わらず狼狽し、進撃する軍に何度もブレーキをかけていることを著者は指摘している
上巻では、主にフランス戦にあたっての侵攻計画(黄の場合、赤の場合)がどのような紆余曲折をへて立案されるのが書かれ、下巻では実際にフランス戦がどのような推移を経たのかが書かれています。
シェリーフェンプランに代わりドイツ軍最高の戦略家マンシュタインが考え出した包囲戦構想は、あまりに投機的過ぎるとして一度ならず上司に却下されたりとか、ヒトラーの霊感(要は奥行きのない認識からでたカン)とマンシュタインが同じセダンという最重要地域に選んだりとか読み所満載です
下巻では主にフランス戦の推移が描かれます
ですがドイツ軍に対したフランス軍はかなりダメダメです
フランス軍司令官が、今攻撃すればこの方面のドイツ軍に大打撃が与えられる!!って攻撃するように命令しても
部隊が集結しきってないからだめ
戦車部隊が燃料切れで動けない
前例が無いからしたくない
支援部隊が夜だとやりにくいと言って嫌がっています
引継ぎがまだ終わってないから無理
ってことで自滅するパターンでや多すぎ・・・
やれば出来る子なのに・・・
攻撃できても、まとまりに欠けていたりとか散々です。
WW1での犠牲があまりにも大きかったため、絶対平和主義に陥って軍備とかあまりしてなかったと思っていたフランス軍の、意外な程の戦争に対する備えに少し驚きました。
有名なマジノ線もそうですけど、ちゃんと脅威には備えていたんですね。
ただ、不幸なことにこの準備はWW1の戦争を念頭に置いたもので、あまりに時代遅れだったんですけどね。
でも当時のフランス軍の戦車は無線と燃料量以外は圧倒的にドイツ軍の戦車より優れていてシャールBというある戦車は、ドイツ軍に単身突撃して対戦車砲2門、戦車13両をまたたくまに撃破し自身は140発も命中弾を喰らいながら、帰還するというチートぶりを発揮してますし、ちゃんと戦えば負けなかったのに・・・。
あくまでちゃんと戦えばですが。
フランス軍指導部はWW1での戦訓から、結局は後方の工場の数で勝敗は決定するとして保守的な作戦指導で良しとしていました。
これに対し、戦略的劣勢におかれていたドイツは作戦的運動戦を蘇らせて、その物量の不均衡を覆そうとしました。
ただこれは、最初の一打で相手に致命的なダメージを与えなければ失敗するという、ある意味投機的な戦略でした。
後に、ドイツはソ連に対して「最初から意図された電撃戦」を仕掛けますが、最初の一打で致命的なダメージをソ連に与えることが出来ず、最終的にモスクワまで達することが出来ずに失敗することになります。
ドイツ軍が行ったこの電撃戦は、カンネーの戦いに比肩すると言われますが、そのカンネーを成功させたハンニバルも結局は戦略的に優位に立っていたローマに敗れてますね。
まさに歴史は繰り返す。