明け方ごろの読書日記

ほぼ読んだ本の備忘録にしています。たまに映画や身辺雑記的ことも書いています。2014年2月から3月までの記事は、2009年頃から2014年3月までに読んだ本を時系列無視で一気にアップしたものです。

『スタリングラートの医師―捕虜収容所5110‐47』 ハインツ・G・コンザリク著

スタリングラートの医師―捕虜収容所5110‐47

スタリングラートの医師―捕虜収容所5110‐47

シベリア強制連行(これを抑留なんて書く連中を僕は信用できない)の悲惨さは良く知られていますけど、しかし同じ敗戦国のドイツの場合は日本の場合とまた違います。
なんといってもドイツはソ連に侵攻したし、ソ連はドイツを打ち倒すために膨大な犠牲を払いますからドイツを憎む気持ちが強いは無理もありません。
収容所のドイツ人捕虜の扱いも生かさず殺さずどころか半殺しか全殺しぐらいの扱いです。

生存できるギリギリのラインをも割り込んでいる悲惨な収容所で、道具も無い中必死で患者を救っていく医師ベーラー。
その姿に収容所を管理するソ連軍人達もその姿に打たれて、ドイツ人捕虜に対する見方を変えていきいつしか彼はスタリングラードの医師と呼ばれるようなっていきます。

冒頭、ベーラー達は普通のナイフしかない状態で緊急に手術することになるんですけど、その緊迫したシーンで本書に没頭させられることになりました。
そしてラストシーンには深い感動と人間愛があり、とても満足しながら読み終わりました。

しかし・・・。
悲惨な収容所生活や緊迫する手術シーンなどを見事に書ききっているのですけど、女性やアジア人に対する描き方には正直不満があります。
例えば、捕虜収容所付きの女医カザリンスカヤは捕虜のドイツ人医師に襲われて惚れてしまってからは作中でも言われてますけど、ほとんど色情狂かメンヘラ状態へ。
それまでは重病の捕虜でも作業可として重労働に従事させていたのに、それ以降は基本的にしなくなる(正確には無関心になる)まさに恐るべきツンデレ
収容所所長の愛人的存在のヤンニーナもカザリンスカヤと同じように捕虜のドイツ人軍医見習い惚れてしまい二股をかけてしまいます。
一番すごいのは炊事係のバッシャで、ソ連人やドイツ人捕虜関係なく自ら肉体関係を持とうと見境無く誘ったりするし(汗)。
しかし、女性の登場人物はみんなこうなのかと思っていると、中盤に登場するドイツ人看護婦はとくにそんなことはないし・・・。
まぁ、収容所にいるソ連人って人間的にアレな人が多いので目がドイツ人に向かうのは無理ないのかもしれないですけど(笑)。

ロマンスがないと、華やかさが出ないというのは理解できるんですけどもうちょっと何とかならないかなぁ。
後書きでカザリンスカヤと軍医中尉のゼルノヴの関係が実にリアリティがあるって書いてありますけど、カザリンスカヤの描写が上記の通りまさに壊れているので、私から見るとリアリティを感じませんでした。

・・・作者はソ連人女性になにか特別な感情があるのだろうか?って思ってしまいました。

あとアジア系のソ連人も出てくるんですけど、他のソ連人が心を入れ替えたりベーラー達に対してある種の敬意を抱いていくのにつれて「いい人」化していくのに対して最後まで卑劣だったします。

なんだかナーって感じました。
これらさえなければ、とんでもない名作になっていたのに(-д-;)。