明け方ごろの読書日記

ほぼ読んだ本の備忘録にしています。たまに映画や身辺雑記的ことも書いています。2014年2月から3月までの記事は、2009年頃から2014年3月までに読んだ本を時系列無視で一気にアップしたものです。

『皇軍兵士の日常生活』一ノ瀬 俊也著

皇軍兵士の日常生活 (講談社現代新書)

皇軍兵士の日常生活 (講談社現代新書)

この本で著者は、昭和の人々が兵士となっていく過程を信条面と制度面の両面から、戦後の資料により明らかにし、実際に従軍した人々がどのように「軍隊」を捉えていたのか?を明らかにし、また戦時下の日本社会には徴兵制がもたらした人々の生と死をめぐる不平等不公平が蔓延しており、誰もそれを正そうとしなかった点を指摘することで、近年徴兵制に対する理想化に対する疑問を提出しようとした。
 
 全体的に著者の狙いのテーマは上手く処理できていないのでは?って感じた。特に「不公平」を扱った部分では、著者はこの問題は「差別」だと言ったり「区別」と言ったりしているけど、そもそものこの本での「差別」「区別」の定義自体がされていないまま話が進められているので、すんなりと著者の言っていることを受け入れることが出来なかった。そのため、先に結論ありきなのかな?って感じてしまう部分が出てきてしまい、その点について残念に思った。

 入営~軍隊生活~戦死の一連の流れと皇軍兵士~軍~銃後社会の対比がとても興味深かった。この点では著者所有の多くの貴重な一次資料などを基にしているため説得力があった。
 民衆は軍部にひたすら抑圧されていたというイメージがあったけど、民衆側も軍に対してある種圧力をかけていたことが分かるし、軍部も意外なほど民衆に対して配慮をしていたことが分かって興味深かった。ひょっとして、軍部悪玉論自体が日本人が全ての責任を軍部に押し付けたことによる幻想なのかも?とまで思った。

 現代日本の派遣・正社員や格差問題などの問題に通じる日本人の思考様式や行動パターンが、戦時下日本社会でもすでにその原型ともいえる姿を現していることを知ることができた。この辺りは著者の狙いは成功しているといえそうだ。

 テーマに対して、本書の内容がキチンと対応していないように感じたけど、幅広い一次資料を基に戦時下日本の本当の姿を炙り出している点は高く評価できると思う。また、徴兵逃れの様々な方法といったトリビアな知識や兵隊達が親分子分な義理人情な関係を持つことへの明快な否定が、軍によってなされていたなど色々なことが書かれていて面白かった。