明け方ごろの読書日記

ほぼ読んだ本の備忘録にしています。たまに映画や身辺雑記的ことも書いています。2014年2月から3月までの記事は、2009年頃から2014年3月までに読んだ本を時系列無視で一気にアップしたものです。

『人間はどこまでチンパンジーか?―人類進化の栄光と翳り』ジャレド・ダイアモンド著

人間はどこまでチンパンジーか?―人類進化の栄光と翳り

人間はどこまでチンパンジーか?―人類進化の栄光と翳り

500Pを軽く超える大著だったのでビビッた。内容はチンパンジーなどと違いホモ・サピエンスは何故繁栄できる様になったのかを色々な学問的成果を踏まえた上で、答えを探して行こうという内容。
 
 著者ジャレド・ダイアモンドは最近文庫化して人気が再燃した『銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎』で有名。この本には『銃・病原菌・鉄』の基本的なアイディアがすでに提出されており、いい感じに内容を忘れていた僕としては、あーこういう内容だったなぁっておさらいが出来た。
 よく処女作にはその作家のすべてがあるって言われているけど、この『人間はどこまでチンパンジーか?』には、上で挙げた『銃・病原菌・鉄』以外にも続編である『文明崩壊』や未邦訳である『Collapse: How Societies Choose to Fail or Succeed』も基本的なアイディアはこの本にあるように思える。
 『銃・病原菌・鉄』で、著者のことを知った人が彼がどのようなパースペクティブの元で『銃・病原菌・鉄』を書いたかを知る事ができるので面白く読めると思う。きっと色々なことが分かって面白いはず。

 話は変わるけど、十数年前に『銃・病原菌・鉄』を読んだとき、その卓抜したアイディアと手際よく難問を整理していく手腕に感動しつつも、なにか釈然としないものを感じていた。
 この『人間はどこまでチンパンジーか?』を読んでその原因が分かった。それは地政学的な配置によって民族の運命が決まるって書いてあるような気がして嫌だったんだ。
 大体初期配置によってその民族が勃興するか凋落するかが決定されているっていうのは、人間性に対してあまりに過小評価じゃないだろうか?
 どうも著者のジャレドさんは白人が世界を制覇したのは白人自体が優秀だったからっていう、ヨーロッパ中心主義的な歴史観を否定して、民族の現在の状況は民族の構成員自体の優劣ではなくあくまで地政学的な配置によるものだということにして、民族間の差別を解消したかったのかな?ってこの本を読みながら思った。趣旨にはもちろん大賛成なんだけどね。

あと色々と興味を持ったところをピックアップしてみる

・自分と伴侶の中指の長さの相関関係が性格の相関関係よりも強い、らしい。でも中指が長ければモテルということではない。トンデモ進化説で誰かが中指が長ければモテルって言ってた人がいたけど、その元ネタかな?

・インディアンの虐殺って聞くと、なにそれ100年以上前の出来事?って思ってたけど1968年にブラジル政府が134人をアマゾン・インディアン虐殺の罪で告発されていると知って驚愕。その殺害方法も、天然痘やインフルエンザなどの病気を蔓延させたり、子供の誘拐、プロのインディアンキラーの雇用(これは土地開発公社が行った)とか、スペイン人とおんなじことをやっている。この詳しい報告書はフィグエイレード報告書として公式に発表されているらしいけど、凄まじいな。
 何よりも暗澹とした気分にさせられるのは虐殺したとされる134人がインディアン保護局の職員だったってことだ。

・チンパンジーをチンプって略しているけど、その後すぐにチンパンジーって表記しているところが多々ある。チンパンジーかチンプかどっちかに統一してくれよ。あと多分、そこ母語って訳すところじゃないかな?っていうところを母国語ってしているところがあって、全体的に平易で読みやすい翻訳なんだけど二点だけ気になった。

ニューギニアの秘境っぷりに大驚愕。太平洋戦争でも戦場になったところの一つだけど、僕達の先輩達はこんなところで戦ったんだな。っていうか、水木しげるさんのゆかりの地でもあるんだと書きながら思い出した。

・作中に引用されていたシェリーの詩が気に入ったので引き出す

「オジマンディアス」

私はいにしえの土地からやってきた旅人に出会った
旅人は言った「2つの巨大な、胴体の無い石の柱が
砂漠の中に立っている。そのかたわら、砂の上に、
半ば埋もれて、壊れた顔が横たわっている。そのしかめた眉、
しわのよった唇、そして冷たい軽蔑するようなまなざしは、
それを彫った主が、その情熱を熟知していたことを物語っている。
その情熱は、これら命亡き者どもの上に刻印され、
それらを侮った者どもの手や、それらを養った者どもの心をさしおいて
いまも生き続けている。
そしてその台座には、次のような文字が見えるのだ!
『私の名前はオジマンディアス、王の中の王、
私が成した業を見よ、偉大なるものよ、そして絶望せよ!』
他に残っているものは何一つない。朽ち果てる巨大な残骸の
まわりには、どこまでも続く孤独な砂が
あらわに、果てしなく広がっているのみ」と。