明け方ごろの読書日記

ほぼ読んだ本の備忘録にしています。たまに映画や身辺雑記的ことも書いています。2014年2月から3月までの記事は、2009年頃から2014年3月までに読んだ本を時系列無視で一気にアップしたものです。

『言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすか (中公新書)』酒井邦嘉著

言葉を学問する言語学って今まで、ソシュールが革命を起こしてパロールって言ってシニフィエがラングなんでしょ?ぐらいの適当なことしか知らなくて、本書が解説する中心的な学説の提唱者チョムスキーについても、ああ、あのアメリカの極左生成文法とかいうトンデモ説を唱えている人でしょ?ってイメージしか持ってなかった。
 そんな人間がこの本を読んだら、色んな衝撃が目白押しで読んでいて非常に面白かった。

 本書の目的は、人間に特有な言語能力は、脳の生得的な性質に由来するというチョムスキーの考えに対する誤解を解き、言語の問題を脳科学の視点から捉え直すことにある。
 チョムスキーかぁって思いながら読んでいくと、言語に規則があるのは、人間が規則的に言語を作ったのでは無く、言語が自然法則に従っているためだとする、著者の考えに納得させられてしまった。
 
  .ト│|、                                |
. {、l 、ト! \            /     ,ヘ                 |   ・・・ところで、言語学上、大きな謎
  i. ゙、 iヽ          /  /  / ヽ            │         だった、言語獲得の3つの謎を
.  lヽミ ゝ`‐、_   __,. ‐´  /  ,.イ   \ ヽ            |   御存知だろうか?
  `‐、ヽ.ゝ、_    _,,.. ‐'´  //l , ‐'´, ‐'`‐、\        | 1.与えられる言語データだけから、幼児が言
  ヽ、.三 ミニ、_ ___ _,. ‐'´//-─=====-、ヾ       /ヽ 語データだけから、幼児が言語知識のすべてを
        ,.‐'´ `''‐- 、._ヽ   /.i ∠,. -─;==:- 、ゝ‐;----// ヾ.、 決定するのは不可能である→決定不能
       [ |、!  /' ̄r'bゝ}二. {`´ '´__ (_Y_),. |.r-'‐┬‐l l⌒ | } の謎
        ゙l |`} ..:ヽ--゙‐´リ ̄ヽd、 ''''   ̄ ̄  |l   !ニ! !⌒ //  
.         i.! l .:::::     ソ;;:..  ヽ、._     _,ノ'     ゞ)ノ./ 2.幼児に与えられる言語データ
         ` ー==--‐'´(__,.   ..、  ̄ ̄ ̄      i/‐'/        は不可能である→ 決定不能の謎
          i       .:::ト、  ̄ ´            l、_/::|     
          !                           |:    |       3.なぜ文法的に間違った分が間違ってい
             ヽ     ー‐==:ニニニ⊃          !::   ト、     ると分かるようになるのか?→否定証拠
            ヽ     、__,,..             /:;;:   .!; \                       の謎
             ヽ      :::::::::::           /:::;;::  /



これを解決するためにチョムスキーが出した答えが・・・!


  ,ィィr--  ..__、j
   ル! {       `ヽ,       ∧
  N { l `    ,、   i _|\/ ∨ ∨
  ゝヽ   _,,ィjjハ、   | \つまり幼児の脳には初めから文
  `ニr‐tミ-rr‐tュ<≧rヘ   > 法の知識があるってことなんだよ!!
     {___,リ ヽ二´ノ  }ソ ∠
    '、 `,-_-ュ  u /|   ∠
      ヽ`┴ ' //l\  |/\∧  /

    • ─‐ァ'| `ニ--‐'´ /  |`ー ..__   `´

    く__レ1;';';';>、  / __ |  ,=、 ___
   「 ∧ 7;';';'| ヽ/ _,|‐、|」 |L..! {L..l ))
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 !、\  \. , ̄        γ/| ̄ 〃   \二-‐' //`

 
 としているところにはつい笑ってしまった。確かになぁ・・・、そう考えれば3つの謎は全て解決されるわ(笑)。コロンブスの卵的発想って言うか、シャーロック・ホームズの「ぼくは以前からひとつの信条を持っています。完全にありえないことを取り除けば、残ったものは、いかにありそうにないことでも、事実に間違いないということです。」という名言を思い出してしまった。

 この本を読んでいたて思ったのは、言語に対する哲学的アプローチは多分行き着くところまで行っていて、脳科学的アプローチのブレークスルー待ちかな?っていう事だった。
 脳科学的アプローチ万能って意味じゃなくて、この二つのアプローチは車輪の両輪っていうか、お互いに影響を及ぼしていくんだろうな。

 チョムスキーのいわゆる「生成分理論」がどのようなものか知ることができ、どちらか問いうと文系の学問だと考えていた「言語学」の研究が、今や脳科学と急接してかなりの成果を出していることに驚いた。お互いのすりあわせというか、共同関係も興味深かった。
 ただ、脳科学の道具である脳の測定器も一見便利なようでいて、それぞれの機器ごとに一長一短なので、それぞれの機器の特性(分解時間や分解空間の差)を良く踏まえた上で、注意深く分析結果を見なければならないらしい。
 今まで単純に、言語を分析するということに過ぎないと考えていた言語学が、人間を他の動物と区別する重要な兆表であり、言語を通して脳の謎を解き明かすことに繋がるという部分に大いに興奮した。