明け方ごろの読書日記

ほぼ読んだ本の備忘録にしています。たまに映画や身辺雑記的ことも書いています。2014年2月から3月までの記事は、2009年頃から2014年3月までに読んだ本を時系列無視で一気にアップしたものです。

『日本本土決戦―昭和20年11月、米軍皇土へ侵攻す!』桧山良昭著

初期の(というか黎明期の)架空戦記を代表する名作で、その鬱展開が長く語り継がれた傑作架空戦記です。
 正直ここまで完成度の高い架空戦記って、そんなに無いと思う。
 檜山良昭さんの本は中学生の時に大逆転シリーズを何冊か読んでいて、なんとなく旧軍が奇跡的に活躍する話なのかなぁ~って思いつつ読み始めると、いきなり目次にそえられている「国土決戦教令」に眼が釘付けになった。
 どんなことが書いてあるかというと

第十一 決戦間傷病者は後送せざるを本旨とす 負傷者に対する最大の戦友道は速やかに敵を撃滅するに在るを銘肝し敵撃滅の一途に邁進するを要す 戦友の看護付添いはこれを認めず 戦闘間衛星部員は第一線に進出して治療に任ずべし
第十二 戦闘中の部隊の後退はこれを許さず 斥候、伝令、挺進攻撃部隊の目的達成後のみ後方に向かう行進を許す

 
 これ読んで、うわぁって思ってしまった・・・。これじゃあ人命は使い捨てかよって感じて、なんちゅう命令だって思っていたら、実際に出されていた命令ですかそうですか・・・

 あと32P目にして、男子は14歳以上65歳以下、女子は45歳以下の人間を職場、地域、学校ごとに組織して戦力にするということが実行されてしまう。
もうここまでの段階でこれから展開するであろう地獄が想像できて、暗澹とした気分になってきてしまう。
 米ドラマ『ザ・パシフィック』を観て、日本人(あえて軍ではなく)がどのような戦いをするかっていうのを観てしまうと、この段階で涙が出そうになった。

 作中世界では原爆の開発が遅れたため、史実では実行されなかった「オリンピック作戦」「コロネット作戦」などのアメリカの日本本土上陸作戦が実行されてしまう。
 国体護持を絶対的な至上目的とする日本軍部はそれこそ小学生に爆弾を背負わせて戦車部隊に突っ込ませる(教師はこれを引率する)などまでして、米軍に攻撃することを日本国民に強要する。
 何十万人の国民の犠牲で数万の犠牲を米軍に与えたことで、満足げにほくそ笑む参謀の描写とか、海軍と異なり決戦を行うことの出来なかった陸軍への温情のために本土決戦を決めたなんてことが語られている部分を読むと、本当に背筋がゾッとするし、リアリティを感じてもしまう。 
 結局約1600万人の国民を磨り潰すように戦った後、敗戦。食糧事情の悪化から、なお500万人近くの餓死者が出るらしいことが語られて終了。
 そもそも、この世界で原爆の開発が遅れた原因が、「そんな爆弾作って使用されたら人道に背く」という科学者の反発だったのだから、ただでさえ悪い読後感が、さらに悪くなった。しかし、史実で本土決戦なんてものが行われなくて本当によかったと心の底から思った。

 秋水の戦果が大きすぎだろとか、石原莞爾が首都防衛の司令官になるのは無理があるだろうとか、阿南惟幾の人格をこう設定するのはちょっと強引だなとか、色々突っ込みたいところはある。あるにはあるけど、そんなものを吹き飛ばすような圧倒的な展開だった。

 これを読んでいると、史実の昭和天皇の終戦時の役割って、デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)に思えてくる。軍部も内閣も議会も揃いもそろってマトモに戦争を終わらすことが出来ず、ただただ事態の収拾を昭和天皇に丸投げとは・・・

 それとこの小説を読む前に『ザ・パシフィック』は観ておくべきだとおもう。悲惨さがよりリアルに感じ取ることが出来るようになれる。